大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所尾道支部 昭和41年(家)418号 審判 1966年12月23日

申立人 太田泰(仮名)

被相続人 太田ヤス(仮名)

主文

被相続人亡太田ヤスの遺産である福山市○○町字○○三九三番地の五宅地二六、四四平方メートルを申立人に分与する。

理由

申立人は主文同旨の審判の申立をなし、その実情の要旨として、申立人は被相続人亡太田ヤスの相続財産につき、相続人不存在に伴う相続財産管理人選任の審判の申立をなし、昭和四〇年五月二七日右相続財産管理人に住所福山市○○町四三五番地中村昭一を選任する旨の審判があり、中村昭一において相続債権者並びに受遺者に対する官報公告をすませ、同人の申立により民法第九五八条の相続人捜索の公告事件の申立をなし、昭和四一年三月一日附官報にその申出期限を昭和四一年九月三〇日とする旨の公告掲載を完了した。よつて特別縁故者に該当する者は右期限より三ヶ月以内に相続財産の分与の申立をなすべきところ、申立人は次にのべる事由によりその特別縁故者に該当すると考える。

一、被相続人亡太田ヤスの実父亡太田良三と申立人の父方の租父亡太田多一郎とは兄弟であり、従つて申立人と被相続人亡太田ヤスとは五親等の親族であり、太田ヤスの生存中同人は、申立人の父太田栄一、母ハルミと親交していた間柄であり、右被相続人亡太田ヤスが昭和一八年八月八日死亡するや、太田栄一が喪主としてその葬儀を執行し、その霊を祭つたが、太田栄一が昭和一九年一月一四日死亡するに至り、申立人は太田栄一の家督相続人として被相続人亡太田ヤスの祭祝を行う地位を承継しているものである。

二、被相続人亡太田ヤスの死亡により、その遺産である宅地二六、四四平方メートルに対する公租公課は太田栄一において納税していたが、栄一の死亡によりその後は妻ハルミにおいて納税し昭和三六年一〇月一七日ハルミが死亡しその後は申立人が納税し現在に至つている。右遺産についての占有関係も被相続人亡太田ヤスの死亡後は、太田栄一においてこれを占有し、その後その妻ハルミにおいて占有を承継しハルミ死亡後は申立人がその占有を承継している。

三、上記のような事情によつて申立人の近隣の者は一般に本件遺産である宅地二六、四四平方メートルの所有権は、亡太田ヤスの死亡により太田栄一を経由して申立人に移転しているものと信じている。申立人自身も法律的知識に乏しかつたため、右宅地の所有権は太田栄一死亡による跡家督相続によつて申立人にあるものと誤信し、申立外宮本京助に右宅地を八、〇〇〇円で売渡し、現在宮本京助の宅地の一部となつており、右地上に同人の建物が建つている。

以上の理由により、申立人はその特別縁故者に該当するものと考えるので、民法第九五八条の三による相続財産分与の申出をなすというにある。

よつて当裁判所はこれを審案するに、本件記録に添付の筆頭者太田泰戸籍、同亡太田栄一除籍の各謄本、同亡太田ハルミ戸籍の抄本、福山市○○町字○○三九三番地の五、宅地二六、四四平方メートルにつき、昭和四一年一一月二一日附広島法務局松永出張所登記官吉川三千雄認証にかかる登記簿謄本、昭和四一年一二月一四日福山市長徳永豊認証にかかる右相続財産に関する固定資産税の納税証明、申立人の審問の結果、並びに昭和四〇年(家)第一七九号相続財産管理人選任申立事件及び昭和四一年(家)第三八号相続人捜索申立事件の審理の過程等を綜合すれば、申立人主張の各事実はこれを認めるに充分であり、且つ本件相続財産の占有について、申立人の占有と、これに同人の父亡太田栄一同母亡太田ハルミの占有を併せると、被相続人亡小林マツの死亡後二三年の永きにわたつて占有を継続しており、申立人のその占有が適法であるとはいえないが他に本件相続財産につき、所有権を主張する利害関係人がなく、一般社会人は本件相続財産は申立人の所有であることを信じているのが実情であり、申立人主張の各事実と相俟つて相続財産を一般社会の法的秩序よりみれば、本件相続財産は、法的に国庫に帰属せしめるよりは申立人の所有とすることが妥当であり、これに反する措置こそ却つて法的秩序を乱すこととなる。してみれば一刻も早く本件相続財産の所有権を申立人に帰属せしめることが必要であり、かかる実情にある以上申立人を民法第九五八条の三に所謂特別縁故者に該当するものと認め得べくよつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 板坂彰)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例